錠剤

昨今、若者の間でサプリメントがブームらしいという話は兼ねてから聞きつけていたが
それに便乗してみようなどと思ったことはなかった。
理由としては、幼少から病気は寝て治すという風潮が我が家にあったため、
薬とか錠剤とか医薬部外品とか、そういったものに対して
異常に抵抗を感じているからだ。


しかし最近では、栄養ドリンクや風邪薬を活用することも強いられたり
自分にとって禁忌だったものがだんだんと浸透してきている。
そんな背景もあってか、ついにサプリメントを購入した。
頭の回転がなにやら鈍い自分自身を酷く責め付けるため、
せめてもの慰めと、その名もDHAである。
かの有名な頭脳パンも認める頭が良くなる成分として注目されている栄養素だ。
水とかと一緒に飲み込むタイプのもので、気休め程度に時折服用しているのだが、
口に入れると糖質でコートされており、ほんのりと甘い。
人類は錠剤などを味わったりしない。美味しいはずもないからである。
でも、今日はどうしても、試してみたかった。その裏側に隠された味というものを。


口の中でおもむろに転がすこと約1分。僕はそこに確かに観た。
漁師が夕焼けの海辺で七輪を団扇で燻す情景を。
猛烈なまでの焼き魚の味。そして、むしろ目玉の味だ。


錠剤と銘打っておきながら魚の目玉を入れるとは。今も胸に残る魚の目玉感。
未知の発見に驚きを隠しつつも、もう二度と味わったりしないことを
夕焼けの海辺の情景に固く誓った。